薬機法改正の最新動向 2025:製薬企業が押さえておくべきポイント

薬機法等制度改正の最新動向:製薬企業が押さえておくべきポイント
国民の期待に応える医薬品・医療機器の提供や、患者さんが安心して医薬品を使用できる環境整備を目指し、薬機法等の制度改正に向けた議論が本格化しました。今年1月には、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会による「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」が完成し、これまでの施行状況の検証に加え、人口構造の変化や技術革新といった新たな課題への対応も視野に入れた広範な検討結果が示されました。そして、5月にはこの「とりまとめ」を踏まえた法改正が実現し、制度の大きな転換点を迎えています。本記事では、改正の背景や重要なポイントを解説します。製薬企業の皆様にとって、今後の事業戦略を左右する可能性のあるこれらの動向をいち早く把握し、備えることが不可欠です。
令和7年1月10日に厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会がとりまとめた「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」は、今後の法改正の具体的な方向性を示すものです。
本記事では、このとりまとめの中から、特に製薬企業に関連の深い主要なポイントを解説します。
1. 医薬品等の品質保証及び安全対策のさらなる強化
今回の改正案では、医薬品の品質確保と安全対策が一層強化されるべきであるとされています。
- 製造販売業者等による品質保証責任の明確化等:
- 責任役員の変更命令: 許可等業者の責任役員が違法状態にあることを認識しながらその改善を怠る事例や、責任役員が率先して違法行為を行う事例も見受けられることから、保健衛生上の危害の発生または拡大を防止するために特に必要な場合には、当該責任役員の変更を命ずることができる旨を規定すべきである。
- 医薬品品質保証責任者の設置等: 医薬品製造販売業者において、品質管理業務を総括する「医薬品品質保証責任者」の設置等を薬機法上義務付けるべきである。これは、医薬品等総括製造販売責任者が医薬品品質保証責任者を監督するという業務上の関係は維持しつつ、品質保証のPDCAサイクルが機能するよう促すものである。
- GMP適合性調査の見直し:
- より合理的な適合性調査体制の構築等: 定期適合性調査の頻度を現行の5年に1度から3年に1度に見直すとともに、調査申請時に提出される初期資料をもとに製造所のリスク評価を行い、低リスクと評価された場合は調査不要とし、リスクの高い製造所に対しては高頻度で実地調査を行えるようにすべきである。
- PMDA・都道府県の役割分担: 後発医薬品(後発品として初めて承認を受ける成分を含有する品目に限る。)の製剤工程に係る新規承認時の適合性調査については、PMDAが実施し、その後の定期適合性調査等は引き続き都道府県が実施すべきである。
- リアルワールドデータ(RWD)の安全対策への利活用の明確化:
- 新医薬品等もしくは新再生医療等製品等の再審査または厚生労働大臣が指定した医療機器もしくは体外診断用医薬品の使用成績評価の申請に当たって、リアルワールドデータのみによる申請が可能であることを明確化すべきである。
- 医薬品、医療機器等の製品データベースへの商品コード等の登録義務化:
- 品質不良等による保健衛生上の危害の発生または拡大を防止するため、製造販売業者に対して、製品データベースへの商品コード等の登録を義務付けるべきである。
【製薬企業への影響と対応の方向性】 品質保証体制の一層の強化、責任者の設置と役割明確化、GMP調査への準備、RWD戦略の策定、製品情報管理システムの整備などが求められるべきである。
2. 品質の確保された医療用医薬品等の安定供給
医薬品の安定供給は国民医療における喫緊の課題であり、その確保に向けた制度整備が進められるべきであるとされています。
- 医療用医薬品の製造販売業者における安定供給確保に向けた体制整備:
- 医療用医薬品の製造販売業者に対し、安定供給体制管理責任者(仮称)の設置を義務付けるとともに、安定供給のための必要な措置(安定供給体制確保のための手順書(仮称)の作成等)を遵守事項として規定すべきである。
- 医療用医薬品の供給不安の迅速な把握、報告徴収及び協力要請等:
- 医療用医薬品の安定供給のための運用上の対応を徹底するため、①製造販売業者に対する供給状況報告・供給不安報告の厚生労働大臣への届出の義務化、②供給不足のおそれがある場合に製造販売業者または卸売販売業者に対して厚生労働大臣が製造・販売等の状況の報告を求めることができる旨の規定、③供給不足のおそれがある場合に製造販売業者、卸売販売業者、医療機関または薬局等に対して厚生労働大臣が必要な協力の要請ができる旨の規定を設けるべきである。
- 安定供給確保医薬品の供給確保策:
- 医療上必要不可欠であって、汎用され安定確保が求められる医薬品を安定供給確保医薬品(仮称)として、法令上、専門家の意見を聴いた上で厚生労働大臣が指定するとともに、生産の促進その他の安定的な供給の確保のために必要な措置の要請等の規定を設けるべきである。
- 医薬品等の供給不足時の海外代替品へのアクセス改善:
- 既承認の医薬品等の供給不足により医療上の著しい影響が生じる場合に、外国で流通している代替品について、優先的な承認審査等や、一定期間の外国語表示による包装の容認等の特例を行うことを可能とすべきである。
【製薬企業への影響と対応の方向性】 サプライチェーン全体での安定供給体制の構築、供給不安時の迅速な情報共有と対応、BCP(事業継続計画)の強化、海外製品導入の可能性検討などが重要となるべきである。
3. ドラッグ・ラグやドラッグ・ロス解消に向けた創薬環境・規制環境の整備
革新的な医薬品を迅速に患者さんに届けるため、創薬環境・規制環境の整備も重要なテーマとして挙げられています。
- 小児用医薬品のドラッグ・ロス解消に向けた開発計画策定の促進:
- 成人用の医薬品の承認申請者に対して、小児用医薬品開発の計画策定を努力義務として課すべきである。また、既に再審査期間として10年が設定されている医薬品について小児用医薬品の開発計画を策定する場合にも再審査期間を延長できるよう、再審査期間の上限を12年に引き上げるべきである。
- 希少・重篤な疾患に対する医薬品等に係る条件付き承認の見直し:
- 重篤かつ代替する適切な治療法がない場合など、医療上の必要性が高い医薬品、医療機器または体外診断用医薬品に係る条件付き承認制度について、承認の取消し規定を設けた上で、探索的試験の段階で、臨床的有用性が合理的に予測可能な場合に承認を与えることができるように見直すべきである。
- リアルワールドデータの薬事申請への利活用の明確化:
- 医薬品等の承認申請時の添付資料の規定では、医薬品等の品質、有効性及び安全性に関する資料とすることなど、より一般的な規定に見直すべきである。
- 医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する見直し:
- 医療上の必要性の高い医薬品の承認までの患者アクセスへのニーズに対応するため、現行の拡大治験の手続の簡素化等を検討するとともに、すでに治験届が提出されている医薬品について、患者一人を対象とする場合には特に簡略な手続により拡大治験を実施できる運用を可能とするなど、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の改正等の検討を進めるべきである。
【製薬企業への影響と対応の方向性】 小児用医薬品開発戦略の見直し、早期承認制度活用の検討、RWDを活用した臨床開発戦略の立案、治験プロセスの効率化への対応などが求められるべきである。
4. その他、製薬企業が注目すべき改正点
上記以外にも、以下のような点が製薬企業の事業活動に関連する可能性があり、検討されるべきであるとされています。
- 製造方法等の中リスクの変更カテゴリの追加等: 品質に与える影響が大きくない中リスク事項に係る変更について、一定期間(40日程度を想定)内で承認する制度を設けるべきである。あわせて、製造方法等に係る軽微変更のうち品質に与える影響が少ないものについては、変更の都度届出を行わせる必要が必ずしもないことや、国際整合の観点から、現行の軽微変更届の仕組みとは別に、当該変更内容を1年に1回厚生労働大臣に報告できる仕組みを設けるべきである。
- 日本薬局方に関する規定の見直し: 海外の薬局方で使用されている規格との整合性や調和を進めるとともに、最新の知見を用いた医薬品の輸入等を通じて安定供給に支障が発生しないようにするため、現行の5年間に3回の改訂のみならず、必要に応じた改訂も迅速に行えるように、柔軟に運用していくべきである。
- 製造所の登録制度の拡大: 生物学的製剤や放射性医薬品等の保管のみを行う医薬品の製造所(市場出荷判定を行う製造所を除く。)を登録制の対象にするとともに、医薬品、医薬部外品、化粧品または再生医療等製品に係る外国製造業者の製造所について、保管のみを行うか否かを問わずに認定制から登録制にすべきである。
- 薬局機能・薬剤師業務のあり方の見直し: デジタル技術を活用した薬剤師等の遠隔管理による医薬品販売や、調剤業務の一部の外部委託を可能とすべきであるとされており、医薬品の流通・販売チャネルに影響を与える可能性がある。
まとめ:変化を捉え、未来へ
今回の「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」は、医薬品等の品質・安全性向上、安定供給確保、そして革新的医薬品の迅速な実用化という大きな目標に向けた、多岐にわたる具体的な施策案を示しています。
製薬企業の皆様におかれましては、これらの改正動向を的確に捉え、社内体制の整備、開発戦略の見直し、サプライチェーンの強化など、早期の準備を進めていくことが極めて重要です。
今後、このとりまとめを基に具体的な法案作成、国会審議へと進んでいくことになります。引き続き最新情報を注視し、変化に柔軟に対応していくことで、国民の健康と医療の発展に貢献し続けることが期待されます。
本記事が、皆様の今後の事業戦略の一助となれば幸いです。
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